会場が暗転し、スクリーンだけが白い光を放つ。鼓動の音が鳴り響くと、舞台の中央に設置されたひと際高いステージの上、安室奈美恵のシルエットが浮かび上がった。その瞬間、悲鳴にも似た歓声と大きな拍手が場内から沸き起こる。ピアノのリフが静かに奏でられる中、マイク片手に彼女が歌い出したのは、デヴィッド・ゲッタとのコラボナンバー「What I Did For Love」だ。

 愛のために、何てことをしてしまったのか。壮大な旋律に合わせ、意味深なフレーズをリフレインする凛とした歌声。そこにエレクトロなハウスのリズムが重なったのを合図にライトが照らし出したのは、ダンサー陣を率いて歌い踊る、ステージの上の美しいアスリートの姿。選び抜かれた楽曲に真摯に向き合い、いくつものリハーサルを重ね、彼女は今、そこに立っている。そう考えた途端、ゾクッと全身に鳥肌が立つ。私たちが待ちこがれているのは、いつだってこの瞬間なのだと思う。

 続いて披露されたのは、「Close your eyes, Close to you」。'97年のナンバーであるにも関わらず、「What I Did For Love」のアンサーソングのごとく響いたその曲に描かれた”孤独”の象徴なのだろうか。ポップだが不気味な2体の巨人が、身体から光を放ちながらステージに登場。アリーナに降り立ち、ざわめく客席の間をゆっくりと練り歩く。ステージに設置された大きなハニカム型ライトボックスと映像が新たな未来を想像させた「Fly」では、冒険する人生を選ぶと歌い、長い髪をなびかせて斜め後ろをクールに振り返るポップクィーンにふさわしい仕草に息を飲んだ「Photogenic」では、スポットライトを浴びる誇りを、「NAKED」では一歩を踏み出す勇気を宣言する。

 ステージでどう再現されるのか? という点でも注目だった「B Who I Want 2 B」のポップな演出も秀逸だった。フィーチャリングした初音ミクとのMV映像をバックにキュートに歌い踊り、衣装や照明、演出など、すべてがきらめく中で歌われた「Golden Touch」では、可憐な歌声をノーギミックでさらりと響かせる。「Say the word」、そして総勢12名のダンサーと共に、次々と形を変えながら動く照明のもとで歌い踊った「Dr.」では最強のダンスシーンを披露し、歌って踊るアーティストとしてのプライドを真正面から見せつける。

 巨大なダイアモンド型オブジェの上に立ち、それぞれのMVの映像を映しながら、DOUBLE、平井堅、クリスタル ケイとのコラボナンバーを続けて歌い上げた場面も絶品だった。それら3曲に共通するスタイリッシュで自立した女性像は、邦楽シーンにおける安室奈美恵のイメージそのもの。日本語を軸にした歌詞の強さも加わり、場内の熱もテンションも急上。さらにその熱気は、想像以上の強靭なダンスと共に歌われた最新曲「Black Make Up」を筆頭とする怒濤のアッパーゾーンで一気に頂点へ。歌い踊る安室奈美恵と女性ダンサーたちの足元がせり上がり、「GENIC」というアルファベット・レターが光るハリウッドライト風ステージが登場した「Every Woman」。そこへ追い討ちをかけるように、「騒げー! 代々木ー!」と安室が叫ぶと、その日いちばんの大歓声が場内に轟く。本編のラスト曲「Fashionista」でレーザーがフロアを縦横無尽に貫けば、オーディエンスがポンポンを手に飛び跳ねながら、はちきれんばかりの笑顔でシンガロングする様子が目の前に広がる。

 その幸せな光景を前に、もし今回の曲順の中に安室奈美恵自身の軌跡とシンクロするドラマが隠されているとするならば、孤独と向き合いながらも、ステージに立ち続ける道を選んだ彼女の選択は正しかったのだと確信する。だからこそ、<どんな日々だって乗り越える/そこに君がいればいつも>と歌う最新曲「Red Carpet」を、彼女はいち早くオーディエンスの前で披露したいと願ったのだろう。

 リリース当初、ノンタイアップ&全曲未発表の新曲という画期的なスタイルでリリースされたニューアルバム『_genic』。楽曲の大半の歌詞が英語詞であり、ある意味、安室奈美恵からポップス・リスナーに対する挑戦ともとれる作品をショウとしてそれをどう見せるかは、今回のツアーの大きな課題だったと思う。それだけに、オーディエンスが各々のスタイルで自由に楽しんでいる姿や、白のドレス姿で大きな月のオブジェの中で歌った「TSUKI」、MVと同じくステージの上で早着替えを敢行したアンコールでの「Birthday」など、キュートな演出や仕草でフロアが大いに沸いたことは、きっと彼女の新たな自信や誇りとなったに違いない。

 安室奈美恵はライヴのために歌い、踊り続ける。遺伝子レベルのLIVEGENICの真髄はステージでこそ輝く。

text/早川加奈子